アベノミクスによる(?)好景気は株価を押し上げ、失業率を劇的に低下させている一方、物価や実質賃金は思い通り上がっていません。
経済学に詳しくなくても、基本的に失業率が下がれば給与が上がるのは当然のように思えるでしょう。職を探す人が減れば企業は人を雇うために高い給与を払って雇おうとするからです。逆に失業率が上がれば給与は下がるでしょう。
このトレードオフの関係を説明するのがフィリップス曲線と呼ばれるグラフです。
さて、今回論じたいのがこのフィリップス曲線が何故か現在の日本では機能していないことについてです。失業率が下がり完全雇用と呼ばれる水準に達しても期待通りに賃金が上がっていません。特に介護業界では顕著に見られ、介護職員の労働力不足と低賃金が同時に社会問題となっています。
その謎について私なりに介護業界の採用に関するミクロな視点から考察してみたいと思います。
目次
アベノミクス下の失業率と賃金上昇率
昨今のアベノミクスにより失業率が改善されており、2017年に入ってからは3%を下回る数値を続けています。正社員の求人倍率も1.0倍を超えて、職あまりが状態化しています。
しかし、賃金の上昇率を見てみると2017年度の実質賃金は上がるどころか微減というような状況です。これだけ長い間低失業率が続いているのに賃金が上がらないことは異常なことで、経済学で説明することが難しくなっているようです。
大概の経済学者は完全雇用まではまだ失業率は下がるはずだ。もう少し経てば賃金が上昇するはずだ。この現象にまともに向き合うことを避けています。
介護業界で賃金が上がらないわけ
さて、この経済状況の介護業界で賃金が上がらないを考察して行きたいと思います。全て私が採用募集を出す上で賃金を上げられていない理由に該当しています。3番目の理由についてはあまり大声でいいにくいですが・・・
介護給付費の減算
2000年に介護保険制度が始まってから、法改正の度に介護給付費は下がり続けています。これは介護事業の経営者に大きな恐怖心を植え付けています。今後も介護給付費は削減され続けから、出来る限り人件費を節約しなければならないとの心理が働いているのは間違いありません。
これは、行政の大きな失敗だと思っています。我々経営者にとてつもない恐怖心を与えていることを自覚してほしいです。
特に中小事業所は今利益を出していても新規投資や給与の増加に使おうだなんて思えないでしょう。
また、処遇改善加算(介護職員の給与を上げるための助成金)という制度が始まっていますが、導入された年や増加された年と同時に介護給付費を減算してしまったため経営者にとって減算の補填として支払われているというイメージが持たれてしまっています。
これでは賃金の上昇につながりません。
賃金を上げて募集広告を出せない
ハローワークや新聞折込、求人サイトなどの求人広告は誰の目にも触れてしまいます。その拡張性が広告のいいところなのですが、現在働いている従業員の目にも触れてしまうことになります。
求人の賃金が従業員の条件以上であった場合、従業員からクレームがつくことでしょう。これは特にパートさんの時給に関して敏感に反応が出てしまいます。
もし、現在の従業員に支払っている賃金以上の求人を出そうとするのならば、現在の従業員にも同等の賃金を支払う必要が出てしまいます。
そうなると人件費全体を押し上げてしまうことになるので、経営者は避ける傾向にあります。
サービス残業の常態化(経営者のノウハウの蓄積)
日本の経営者にサービス残業をさせるためのノウハウが溜まってきていることがあげられます。つまり、人で不足分を今いる社員で補なってしまうため、賃金を上げる必要なないのです。
サービス残業のさせ方や労務管理の方法などを謳った本が出版されていたり、あろうことか社労士が『残業代を請求させないための方法』などを指導するようなありさまです。
ブラック企業と言われる業界の代表として飲食やアパレル(介護もか・・・)がよく挙げられますがその業界の経営者に話を聞くと従業員の使い方がとても上手い(ひどい)です。
恐怖や責任で縛り付けたり、時には賞賛して持ち上げる・・・従業を辞めさせずに使い倒す技術は存在しています。
残念ながらそういった業界のノウハウは介護業界をも侵食し始めています。私の知っている経営者にも飲食業界からの参入組は数多く、業界で培われた人事管理術を使って労働力を安価に手に入れることで競争に勝ち残っています。
介護業界も賃金を上げずに労働力を買う能力だけは産業界でもトップレベルで、それはマクロ経済に影響を与えるレベルに達していると私は思います。
賃金を上げるには
以上の3つが介護業界で労働力不足なのに賃金が上がらない理由だと思っています。私も経営者ですからとても気持ちがわかるのです。
その中で私の事業所の賃金が上がり続けている秘密は、歩合制の賃金制度を導入していることにあるかもしれません。歩合制の賃金制度についてはこちら
一企業としては小さな力かもしれませんが、介護業界全体で賃金を上げていきみんなが働きたい業界にして行くことが必要です。
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